月夜見
 残夏のころ」その後 編

     “外堀からの眺め”


今年もそれは獰猛なライオンのようにやって来た、
暴れん坊な二月もあと僅かとなり。
豪雪地帯ではまだまだ降雪も積雪も猛威を奮っているようながら、
西日本ではぼちぼちと、
盆梅展が催されるってよ、
そういや○○梅園も観梅にって公開されるってポスターが…と、
春告げの花の便りが聞こえ始めてもいるそうで。

 「神戸や淡路島なんかじゃあ、
  いかなごの釘煮っていうのがこの時期の名物でね。」

 「いかなごの 釘?」

手編みの帽子もお似合いの、
ほぼ毎日お越しでお馴染みのお母さんが。
今日の売出し、肉厚で元気なホウレン草を新聞紙で包む若い衆へ、
こんな話、知ってる?と、振ったのがそんな季節のお便り話で。

 「そう、かますごともいう魚の稚魚のことでね、
  それの漁が解禁になるのが今時分なんだけど。」

  あの辺のお母さんたちは、こぞって何キロって単位で買ってって、
  それぞれのお家で砂糖と醤油で甘辛い佃煮にするの。
  ショウガで風味をつけて、飴みたいになるまで煮詰めるんだけど、

 「それを煮始める匂いが あちこちからしだすと、
  ああそろそろお雛様か、もう三月ねぇって実感が沸くのよね。」

 「ふ〜ん、そうなんだ。」

何か田作りみたいだね、お正月がもう一遍来るんだな…なんて。
それはにこやかに微笑った店員さんだったので、
あら上手いこと言うわねと、
お母さんのほうもご機嫌よろしく笑い返してくださって。

 「じゃあまたね。」
 「ありがとうございましたっ♪」

ぺこりと頭を下げてのお見送りも朗らかに、
相変わらずお元気な、青果部 葉もの担当のバイトの坊や。
開店と同時に押し寄せた、
朝の部のラッシュもそろそろ一区切りかなと、
人の波が途切れて来たのを見回しながら、
商品を並べていた陳列台の整理にかかる。
今の時期は、吹き抜けの多い売り場は寒いからと、
トレーナーだのセーターだのを重ね着していてそうは見えぬが。
高校生には見えないほどに腕も足も腰もひょろりとしていて、
しかも童顔なものだから。
自然と、お客さんたちから…のみならず、
パートのおばさまがたからも、
マスコットのように可愛がられている坊やであり。

 『おはぎがあるけど食べてかないかい?』
 『あれあれ、どうしたね。ここんとこ、こんな濡らして。』
 『ほら貸しな。食堂のストーブで乾かしてもらうといい。』
 『その間は、どうしたもんかね。』
 『そら、搬入のおじさんからジャンパー借りて来たからさ。』

店長の甥っ子だという身の上なんてのは一番最後に来るくらい、
皆さんから、自分の親戚の子のように構われまくりの、
ある意味 アイドルでもある坊やだが。
ここ最近は、そんな坊やだけじゃなくって、
別なお兄さんもまた、こそりと注目を浴びておいでだったりし。
当事者じゃあないからこそ、
やや離れたところから双方共を見ているからこそ、
気がつくことというのは多々あって。
ああもう、焦れったいねぇと感じてしまう歯痒い進展を、
ついつい話題にしちゃあ、沸いてしまってたり。

 そう

気になる同士がチラチラと様子を伺っているとしか見えぬ、
そんなたどたどしい意識のし合いが頻繁な、
微妙な二人になりつつあるの。
ほぼ出会いのころから、
こそり眺めておいでの周囲の皆様だったりするので。

 「いやもう、楽しみが増えたって言うか。」
 「今時じゃあ中学生だって、
  カノ女・カレ氏って間柄の子が相手なら、
  もうちょっと、何てのか…進んでいようにねぇvv」

  ああいうのを“びいえる”とかいうんだろ?
  PL? なんだ、あの子ら野球部なのかい?
  違う違う、BLだよササキさん。
  なんだそりゃ、
  何とかカゼイシロタ株の入った、
  新しいヨーグルトの話なのかい?と。

そっちのやりとりの方も、
時として聞いてて笑える応酬だったりするのだが。(ホンマに・笑)
そんなややこしくも微笑ましい間柄となっていること、
周囲の皆様から見守られておいでのバイトの二人というのが、
片やはルフィという高校生で、葉もの担当のマスコットなら、
もう片やは 坊やより後からこちらの売り場へやって来た、
搬入担当 軽トラ部隊の頼れる新人、ゾロとかいうやはり高校生で。
場内の売り場を回り、
搬入に使った“バッカン”とも呼ばれる
野菜用のプラケースを回収していた彼だったが。
旬の葉ものを担当している、
つまりは回転のいいこちらのブース前では、
ただケースを持って行くだけじゃあなく、

 「そろそろ、ホウレン草追加しましょうか。」

そんなお声まで掛けてくれるものだから。

 「お、おお。頼もうかな。///////」

天然で無邪気で、屈託ないはずのルフィちゃんが、
微妙に堅くなっちゃうお相手。
嫌いだとか苦手だからというんじゃない証拠に、
口許が隠しようもなくの によによとほころんでいるし、

 「じゃ、すぐ持って来ますんで。」
 「おお♪」

語尾の音符は、戻って来るのを期待しての“るんvv”であり。
こういう隠しごとまでも下手なところが初々しいったらないったらvv

 “…うっせぇよっ。//////”(あははvv)

周囲の皆さんが少しずつ得た情報を統合すると、
通ってる学校も別なら、
学年は、何と…小柄でやんちゃ坊主のルフィのほうが上ならしく。
バイトとしても先輩ならば、学年でも上という相手だからか、
妙に堅苦しくも“です・ます”を使っていて、
態度も下からという話しかけをするゾロくんなのだが。

 はっきり言って、
 明らかに彼のほうがずんと年上という風貌で。

何でも剣道の猛者だとかで、上背もあっての筋骨隆々。
軽トラの乗り降りが、
四輪駆動のワイルドな車からのそれに見えるほど、
なかなかに存在感もある、
野生系武士道イケメン。(何だそりゃ・笑)
しかもしかも、
過去に大怪我をしたせいで、
リハビリもあって2年ほど留年していて、
実はルフィ坊やより年上だったらしくって。

 「そりゃあ…まあなぁ。」
 「でなきゃ、トラックの運転を任せたりしてねぇって。」

まだ高一では、
原付き以上の免許 取れませんものねぇ。(まったくだ)

 『だったら尚更、タメで口利きゃいいのによっ。』

時々、ぷぷ〜いと膨れたルフィさんが、
スカジャンの下に着ていた、
大きめのオーバーオールのポッケへ両手を突っ込んだまま、
その大きい背中にどんと後方からの頭突きを食らわし。
頭でどつかれた側が、おっとっとと、
その身をよろめかせての、
驚いたという素振りというかリアクションをしつつも、

 『いや、これはそういう性分っすから。』

向かい合ってた自動販売機からの電子音に、
今度は微塵も揺らさず、取っ手つき紙コップを取り出すと、
はいココアと、余裕で振り返る頼もしさ。
そんなホットな雰囲気で、
放課後ならぬ、就業上がりのひとときに、
他愛ない会話をしつつ過ごしていたり。
そのまま“寒いから送りますよ”と、
後輩のお兄さんがバックヤード前まで軽トラを回して来るのを、
ちょみっと もじもじ待っていて。
誰かが“おやまだ帰らないのかい?”と通りかかれば、
いやあのその…///////と ワケもなく焦ってしまったり。
そんな含羞みっぷりが、何というのか、
ああ青春だねぇなんて
見ている方へまで によによと甘酸っぱい気持ちにさせる。
不思議だよねぇ、男の子同士なのにね。
ルフィはそもそも甘えん坊で、
奢るぞーとか ついでに送るぞーなんて場面は、
これまでだって、他のお兄さんとも、
その天真爛漫さからご披露して来たくせにね。

 『あれは遊びだったんか。』
 『そっか、俺はもてあそばれたんか。』

おいおい、お兄さんたち。(大笑)
そういうややこしい冗談はともかくとして、
暖かいのと寒いのが、行ったり来たりな頃合いだけれど。
落ち着かないのもまた、わっくわくな春が間近い証拠。
無邪気な坊やと朴訥なお兄さんと。
落ち着いた振りしてる誰かさんだとて、
実のところ、不意を突かれては落ち着けずにいるのは明白で。
今度の春は、どんな展開が待っているやら、
皆様も こそり見守ってやってくださいませね?





   〜Fine〜  2012.02.27.


  *冒頭にも出しましたが、
   “いかなごの釘煮”の季節がまたやって来ましたよvv
   炊きたてご飯のお供に、なくてはならない逸品。
   関西の瀬戸内沿岸地域では、
   これの売り出しが始まって各家庭で煮始める時期と、
   ひな祭りへの準備の色々がチラシに躍る時期がほぼ同じでして。
   よって、本格的な春の足音代わりでもあったりいたしますvv

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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